赤い鳥に会いに

2020年12月21日 甲信越地方
野鳥写真家 中村利和
本格的な冬となり各地から雪の便りも届きだした12月、真っ白な雪や霧氷と赤い鳥の組み合わせを期待して何年も通っている山へ向かった。

夜中に自宅を出発し今回のフィールドに到着したのは午前7時、車の外気温を示す表示は-9℃を示していた。車を降り辺りを見渡すと雪は陽の当たらないところ以外ほとんどなく、冷え込むという予報に反して霧氷も見ることができず、少々出鼻をくじかれた感じだが、これも自然、野鳥撮影ではよくあることだ。
野鳥写真家 中村利和
今回の目的の鳥はオオマシコ。オオマシコは冬に主に本州以北に渡ってくる冬鳥だが、数はそれほど多くない。オスは鮮やかな紅色を纏ったバードウォッチャーには人気の鳥で、しびれるような極寒の中でもその鮮やかな紅色に出逢うと寒さも吹っ飛び、出逢えた喜びでとても幸せな気分にさせてくれる、そんな魅力的な鳥だ。

足元に雪はないが、鳥を探して歩き回ることが予想されるので防寒はしっかりとし、そして撮影機材や双眼鏡の準備をする。鳥たちを探したり、行動を観察しその後の撮影方法を考えるのに双眼鏡は必須のアイテムだ。今回のように歩いて鳥を探して撮影するスタイルでは、撮影機材はできるだけ軽量のものにして負担を軽減したい。なので マーキンス BV-HEAD を装着した三脚を選択し、機材を取り付ける。レンズは状況に応じて200-600mmのズームと600mm単焦点を準備した。
野鳥写真家 中村利和
歩き始めてしばらくすると前方のブッシュの中にチラッと動く影が見え、「チーッ」という声が聞こえてきた。動いた影の方を双眼鏡で確認すると、そこには探していたオオマシコの姿があった。主にハギなどの種子を好んで食べるオオマシコを探すには、好む種子をつけた植物を中心に探すのだが、この山の周辺にはオオマシコの好むハギなどの植物がいたるところにあり、オオマシコたちの食事の時にその場所に居られるかどうかはタイミング次第、長年通っていて、見られそうなポイントはなんとなくわかってはいるものの、今回はそのタイミングがうまく合ったようだ。

双眼鏡で確認したオオマシコは複数、ざっと10羽以上はいる。こちらを警戒させないよう静かに観察していると、ハギの木の枝先に1羽づつ飛び移り、採食を始めた。次々と枝先で種子を食べ始めたオオマシコたちを見て、次に移動しそうな方向を予想し、その方向に回り込み待っていると、狙い通りに群れが徐々に移動して撮影可能な距離まで近づいてきた。彼らを驚かせないようにゆっくりとレンズを向けファインダーを覗くと、そこには無心にハギの種子を食べる鮮やかなオオマシコのオスの姿があった。
野鳥写真家 中村利和
オオマシコ
SONY α9 / FE 600mm F4 GM OSS / F4 1/250秒 ISO1250
しばらく観察、撮影していると食事に満足したのかオオマシコの群れは飛び去った。また歩き出すと上空からイスカの声が聞こえたので空を見上げるとイスカの群れが飛んでいるのを見つけた。双眼鏡でその群れを追うと少し離れた木の上にパラパラと降り始めたのでその木の方へ行ってみると、運よくイスカのメスに会うことができた。
野鳥写真家 中村利和
イスカ
SONY α9 / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / F6.3 1/5000秒 ISO1250 -0.3EV
枝先で休む個体がいたので逆光になるポジションを選び撮影、オオマシコのエッジが光り、その姿が浮かび上がった。
野鳥写真家 中村利和
オオマシコ
SONY α9 / FE 200-600mm F5.6-6.3 G OSS / F6.3 1/250秒 ISO400 -0.7EV
この取材の12月21日は冬至で、この写真を撮影した14時30分頃にはすでに太陽は傾き始め、夕方の陽射しになっていた。
野鳥写真家 中村利和
オオマシコ
SONY α9 / FE 600mm F4 GM OSS / F4 1/800秒 ISO800 -0.7EV
今回はなんとか目的の鳥、オオマシコの群れに出逢え、撮影することもできたが野鳥との出逢いは一期一会、どれだけ多くフィールドに出られるかで成果も変わってくる。

今回はなかなか納得のいく作品とまではいかなかったので、近いうちに今度は雪や氷の白い世界の中の赤い鳥を期待してまたこのフィールドに戻ろうと思う。
野鳥写真家 中村利和
野鳥写真家 中村利和
野鳥写真家 中村利和
中村利和
1966年神奈川県生まれ。 日本大学芸術学部写真学科を卒業後、アシスタントを経てフリーランスのフォトグラファーとして活動。 高校生の頃、友人の影響で野鳥の観察を始めて以来、身近な野鳥を中心にその自然な表情、仕草を記録している。 「光」にこだわり、「光」が感じられる写真を心掛けている。 2017年、初めての写真集「BIRD CALL」出版。
日本野鳥の会会員
日本自然科学写真協会(SSP)会員
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